マツコが食べるとスーパーから商品が消えるワケ

マツコが食べるとスーパーから商品が消えるワケ
フードプランナー 渥美まいこ
2018年09月01日 08時00分
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スーパーの棚からある商品が姿を消した――。そんな現象を目にしたことはないだろうか。
普段、何げなく使っている調味料、インスタント食品、スナック菓子などが突如として脚光を浴び、爆発的な流行となる。
食のブームが起きる背景には何があるのか。フードプランナーの渥美まいこさんに解説してもらった。
食ブームをむさぼる日本人
ビリヤニ(上)パキスタン料理の一種で、スパイスとコメ、肉、魚、卵や野菜などで作るコメ料理。ブッタボウル(下)キヌアや玄米などの雑穀類、カットした野菜類、豆やイモなどを盛り付けた料理
高級食パン、
タピオカドリンク、
甘酒、
クリームソーダ、
ビリヤニ、
ブッタボウル……。
これらは最近、ブームまたはブーム予備軍として盛り上がっている食べ物です。
みなさんはいくつ知っていますか?
洋服や音楽と比べると、世代間・男女間で嗜好の隔たりがなく、暮らしの一部になっているため、とかく食べ物は「ブーム」として話題になりやすい傾向があります。
1990年ごろから、さまざまな食べ物が最先端のトレンドになり、かつ手軽に消費されるようになりました。
食の情報化は加速し、SNSなどによって拡散されるようになると、結果として特定の食ブームのインパクトは弱まり、その寿命はどんどん短くなっています。
ティラミス(1990年頃)や
ナタ・デ・ココ(93年頃)
のように、時代を象徴するセンセーショナルな出来事になることはめったになくなりましたが、半年に1~2点は“今年の顔”となるようなブームが起きています。
次々と湧き出てくる食のブームの中で、大きなブームに成長する食べ物にはどんな特徴が隠れているのでしょうか?
日本人の心をわしづかみにする食ブームの背景を探ってみましょう。
ブームとなる、きっかけ
ある食べ物がブームになる背景は様々ですが、老若男女、全国津々浦々に伝わるテレビ番組は「ブームとなる、きっかけ」として今なお強い影響力を持っています。
みのもんたが司会をしていた
「午後は○○おもいッきりテレビ」(日本テレビ系),
「ガッテン!」(NHK)
などの情報番組は、「ダイエットに期待できる」「血液がサラサラになる」といった健康効果と結びつけて視聴者の関心を集めます。
一方、チョコミント、シューマイ、激辛麻婆豆腐、たらこパスタ……、最近、話題になったこうした食べ物は健康効果とは無縁です。
視聴者の「ちょっと食べてみたい」という衝動を刺激し、「ブーム量産マシーン」となっているのが、バラエティー番組
「マツコの知らない世界」(TBS系)
です。過去にこの番組をきっかけとして、ブームになった食べ物は数知れません。
スーパーの店頭で「マツコの知らない世界に紹介されました」という売り文句を見つけたり、友人との会話の中で「あの番組を見て買ってみた」というフレーズを聞いたりすることも増えました。
売り上げが2倍に伸びた
番組終了後に売り上げが伸びた「ザ★シュウマイ」(味の素冷凍食品提供)
この番組の影響について、「TSUTAYA」などを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が約1万5000人を対象に、視聴者層(放送を見た人)と非視聴者層(放送を見なかった人)に分けて購買実績を調査しています。
「マヨネーズの世界」をテーマにした放送後、視聴者層のマヨネーズ購入率は非視聴者層に対して189%となり、放送を見なかった人の2倍近くに上ったそうです。
今年5月に放送された「シュウマイの世界」では、マツコが味の素冷凍食品の「ザ★シュウマイ」について、「革命的なエポックのような商品、まるで冷凍食品ではない」と絶賛。
同社によると、放送後の商品の売り上げは放送前の2倍に伸びたそうです。
それにしても、食の情報を取り上げる番組が数多くある中で、なぜ、この番組だけが際立って次から次へと食べ物のブームを量産できるのでしょうか?
マツコが食べるとスーパーから商品が消えるワケ
【理由1】購入につながる「火曜9時」
社会的な食ブームにおいて、重要なことは「一部の層を超えて広範囲に」知ってもらうことです。
「一部の若者だけ」「SNSの中だけ」で盛り上がっているなら、それは「ツイッターの速報トピック」にすぎません。
実際の消費や購入につなげるには、コンビニやレストランを頻繁に利用するサラリーマンや、食卓の実権を握る主婦に強烈なインパクトを与えなければなりません。この二つのターゲット層を取り込むのに、放送時間の「火曜9時」は絶好のタイミングです。
平日のこの時間帯は、帰宅後のサラリーマンが夕食を取りながらチャンネルを合わせ、主婦が家事や子どもの世話をしながらダラダラとテレビを見ます。
実際、この番組の主な視聴層は、
男性の40代(12.7%)、
50代(13.6%)、
女性の30代(14.5%)、
40代(12.7%)
となっています(CCC調べ)。
購買につながるターゲットに情報を届けるというのも、大きなブームを生み出す重要な要素の一つといえます。
【理由2】保守派を取り込む長尺戦略
ブームに対する反応は、大きく分けて二つのタイプがあります。
情報に敏感ですぐに飛びつく「ミーハータイプ」と、ブームには比較的冷静で定番商品を愛し続ける「保守タイプ」です。
話題の食べ物が、大きな「社会的食ブーム」へ成長するには、後者のような「食ブーム保守派」の心を動かし、「ちょっと食べてみたいかも」という気持ちにさせなくてはなりません。定番一辺倒の「食ブーム保守派」に新商品を試させるのは至難の業です。それを可能にしているのが、この番組の尺(特集を扱う時間)です。
「マツコ―」は毎回、2本の特集で編成されます。
それぞれの尺は、内容によってばらつきがありますが、食の話題は25~40分の長尺に構成されています。
食品そのものの魅力はもちろん、最新の情報や食べ方のアレンジなどを紹介していますが、斬新すぎる場合は、マツコが
「さすがに、それはちょっと……」
と保守派に寄り添います。
その上で、食べ物についてああでもない、こうでもない、と語っている様子を見ていると、頑固な保守派も
「試しに明日、店で見てみようかな」
という気持ちになってしまいます。
「食ブーム保守派」の凝り固まった価値観のしこりを30分かけて、器用にもみほぐしてしまうのです。

Yomiuri Online
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20180816-OYT8T50008.html?page_no=2



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