今はまさしく盲腸線~~旧夕張線

道内主要石炭鉄道の旅客輸送密度推移




今はまさしく盲腸線~~旧夕張線
訪問:平成19(2007)年盛夏
普通列車の断層
JR北海道では一日散歩という休日割引を用意している。
道央版の場合、
札幌を中心として
北は美瑛・滝川・新十津川、
東は新得・様似、
西は長万部まで
というたいそう広大なエリアを、一日のあいだ普通列車乗り放題という、一見お得な割引である。
ところが実際には、必ずしもお得とはいえない部分がある。
普通列車の数が極端に少ない区間が随所にあるため、使いにくいことこの上ないのである。
函館本線の電化区間でさえ、岩見沢以北では普通列車の数が激減する。
千歳線南千歳-苫小牧間も同様だ。
距離の長い都市間の移動は特急頼り、という状況が今の北海道の現実といえよう。
普通列車の設定は、輸送量が大きい札幌都市圏を除き、最小限に抑えられており、利便性という言葉からはるか遠いのが実態である。
石勝線についても同じことがいえる。
新夕張(厳密にいえば廃止された楓)-新得間には普通列車の設定がもともとなく、同区間内に限って普通乗車券のみで特急に乗車できる特例の存在が広く知られている。逆にいえば、残りの区間には普通列車の設定があるわけだが、千歳-南千歳-追分間の区間列車設定にどれほどの実需が伴っているのか、怪訝に思えるほどだ。そして、普通列車の設定があるからこそ、普通列車のみで夕張に入ることが不便極まりなくなるという、皮肉な状況が惹起されている。
午前中のうちに夕張に乗りこもうとすれば、特急「スーパーとかち 1号」に乗車のうえ新夕張で 2629Dに乗り換える以外の選択肢が実はない。
普通列車のみでは夕張市内到着が昼過ぎとなってしまい、大夕張鉄道踏査など目論んでいた筆者においてはあまりにも不便なので、特急券を奮発するしかないわけだ。
新夕張
2629D@新夕張(奥は追分→千歳行2626D)
念のためにいえば、もともと夕張線は夕張への主導線ではない。
夕張線には優等列車の設定もなかったほどである。
札幌-夕張間の最短経路は昭和50(1975)年廃止の夕張鉄道であって、利用者は専らこちらに集中していたものと思われる。
しかし、その夕張鉄道にしても、昭和30年代の最盛期でさえ旅客輸送密度は
2,000人/日
に届いていない。
夕張に限らず、石炭産業は人の流れをつくらないのかもしれない。
輸送密度
道内主要石炭鉄道の旅客輸送密度推移
夕張鉄道の後を襲ったバスにしても、状況はほとんど変わらない。
夕張市内に最も早く到着する便は、
中央バス「高速ゆうばり号」
札幌バスターミナル発 9時15分→石炭の歴史村着11時(“高速”を銘打っていながらあまり速くない)
で、次いで
夕鉄バス
札幌大通発10時-中央長沼経由→夕鉄本社着11時40分
である。
夕張の衰退に伴う減便を考慮する必要はあるとしても、少なくとも現状では、公共交通機関を利用して夕張市内に乗りこむのはたいそう不便であることがわかる。

以久科鉄道志学館
http://www.geocities.jp/rail_of_shinsyu/ezo/you/you.html
http://www.geocities.jp/history_of_rail/781/781.html
http://www.geocities.jp/rail_of_shinsyu/ezo/index.html
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夕張駅にて
大夕張鉄道の踏査を終え、南部からの夕鉄バスの最終に乗り、再び清水沢に戻ってきた。
そのまま札幌に帰ってしまうのも芸がない話で、たまたま充分な待ち時間があったため、夕張まで足を伸ばすことにした。
夕張は二度に渡って駅位置が変更されている。
当初は炭鉱直近にあり、次いで市役所の近くに移設され、現在はさらに下ってホテルマウントレースイ直前に立地している。
このような変遷じたいが、夕張線の性格を端的明快に物語っている。
石炭輸送モノカルチャーに特化した線形は、石炭産業が衰微した後の夕張にはマッチせず、さらに行政中心よりも観光振興を優先して、今の姿ができあがったのである。
夕張
残念ながら、その努力は空しいものだったといわざるをえない。石炭産業という巨大な基幹産業が失われた後もなお鉄道を維持するというのは、そもそも困難なのである。
観光振興を図る意図は理解できないでもないが、夏場には安定した集客力がある石炭の歴史村を敢えて外す選択を一度はした以上、鉄道が観光振興にあまり寄与しないことはわかっていたはずなのだ。
レースイスキー場はローカルなゲレンデで、難度が高い急斜面を攻める上級者以外には楽しめる要素が少ない。
ホテル設備などの良さを前面に出すならば、少なくともゴルフ場併設が必須条件であろう。
「箱」だけは立派に仕上がっている様子だが、それだけで客を呼べるものではなく、まして経営に寄与するとはいえない。
さらにそもそもの話をすれば、アルファリゾートやプリンスホテルの苦境を見ればわかるとおり、観光ホテル経営はまさに水もので、難しい部分が多いのである。
立派なホテルをつくり鉄道の駅を隣接させる、という「形」だけをつくっても、成功が保証されるものではあるまい。
そして、今の夕張の風景が「神の見えざる手」による審判を経たものであるならば、「答」は既に示されたようなものである。

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清水沢駅舎
夕張駅舎
夕張駅前の風景










◆下り2629D
その「スーパーとかち 1号」に乗り、新夕張に降りてみて驚いた。
乗り換える利用者が多数いるではないか。
2629Dに乗車してから数えてみれば、実に32名。
キハ40単行の席がほぼ全て埋まるほどの乗りで、雰囲気からすれば外来の客が多数というところ。
財政破綻で良くも悪くも全国に名を知られた夕張ではイベントが仕掛けられる機会も多く、今日もなにかイベントがあるのだろうか。
2629Dは定時に出発する。沼ノ沢では乗降なし。
南清水沢では 2名が降車し、かわりに 1名が乗車。
このへんは明らかに地元在住利用者であろう。
筆者においては清水沢が活動起点になるので、ここで降りなければならないが、他の降車は少ないだろうと読んでいた。
ところが、実に18名の降車があって再び驚く羽目になった。
清水沢
2629D@清水沢
ほぼ全数が降車するというならば、清水沢にてイベントが仕掛けられたと判断できるのだが、比率が微妙すぎて読みにくい。
実際のところ、18名は三々五々と散っており、同じ目的を共有していた様子はうかがえなかった。
筆者は間違いなく奇特な部類の目的のためにこの地に来たと自覚しているのだが、18名がそれぞれの思いを持ち、それぞれの目的を達するために夕張の地を訪れたとするならば、日本の社会も成熟したものだと深い感慨を覚える。

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2629D







◆上り2640D
夕張から 2640Dに乗車した。出発時点で利用者は 9名。
地元利用者は少ない様子で、既に薄暮のなかとはいえ、さびしい状況である。
鹿ノ谷からは 4名が乗車、朝の車中に見た顔もいる。
夏休み中という観光のハイシーズンに、夕張市財政破綻という話題があってもなおこの状況だから、実需の薄さがくっきりと浮かび上がってしまう。
朝の 2629Dがほぼ満席だったとはいえ、所詮は32名にすぎない。
基幹産業もめぼしい観光資源もない地域を走る鉄道の、あまりにも厳しい現実である。
存在意義をほとんど失っていながら、今日もなお営業を続けているという意味において、夕張線(石勝支線)はまさに盲腸線といえるだろう。
JR北海道はこの秋に蒸気機関車を運転して夕張を応援するというが、これら「侠気」により辛うじて存続が果たされている、というのが良くも悪くも実態であろう。
2640Dは快調に進んでいく。
非力なキハ40でも、下り勾配では快速だ。
清水沢では乗降ゼロ、
南清水沢では降車が 1名、
沼ノ沢では乗車が 3名あり、
車内は15名になった。
外はすっかり暗くなってきた。新夕張では 8名が降車、札幌・帯広両方向の特急に乗り換えていく。
僅かこれだけの数で夕張市を支援できるかと問われれば、これまた厳しい話である。
かといって、夕張線のサービス水準を高めれば利用者が伸びるというものでもあるまい。
その意味における夕張線とは、いわば「盲腸の隘路」と呼べる存在なのかもしれない。

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2640D














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