片山ゆう: 少子高齢化が進展する中国
片山ゆう: 少子高齢化が進展する中国
■介護保険制度の全国導入
昨年2019年4月,中国政府が発表した文書が話題となった。政府は2020年に介護保険制度の全国導入を目指すとしているが,文書では「2022年までに誰もが基本的な養老サービスを受けられるようにする」と先延ばしとも受け取れる内容だったからである。
介護保険制度の全国導入は習近平政権が2016年6月に指示して,まず中国15都市のモデル地域で先行的に導入した。現時点では多くの都市でこのモデル地域を参考に導入やその検討が進められている。中国の介護保険制度は 各地の市が運営して,財源は各市の公的医療保険の積立金を転用しているのが現状である。実際の運営業務は民間の保険会社に委託するケースが多い。しかし先行導入している都市ではすでに財源不足に直面。認知症の患者が想定以上に多く,医療保険基金からの転用だけでは到底賄えない都市も出ている。雇用主が個人に新たな保険料徴収をしていかざるを得ない状況である。
中国の場合,雇用保険への加入は公的医療保険への加入を前提としている。加入者は公的医療保険12.16人(2018年時点)であるが,介護保険は2019年6月時点でわずかに854万人。現状では年内の全国導入は厳しいと見られる。
■少子高齢化が進展
中国では1970年代後半から実施した「一人っ子政策」によって少子高齢化が急速に進展して,2025年には高齢化率は14%に及ぶと予測されている。
中国は,これまで人口増加が豊富な労働力を供給して経済成長を支える「人口ボーナス」を享受してきた。しかしすでに生産年齢人口は減少に転じており,医療や年金といった社会保障の負担が増加する「人口オーナス」の時代を迎えている。2016年に「一人っ子政策」は廃止されたが,ライフスタイルの変化,教育費の高騰から出生率は下がる 一方で過去最低を更新し続けている。
■国防費の4倍の保障費
一方社会保険費は習近平政権が発足した2013年からの5年間で4.3兆元(約70兆円)に倍増した。国の歳出の19.3%を占め,国防費1.1兆元の約4倍に及ぶ。留意すべきはここに公的介護保険の経費が含まれていない点である。しかも国の財政収入の伸びは低下傾向になって,財政赤字は習近平政権発足以降拡大し続けている。加えて昨年2019年は米中貿易戦争の影響から大幅な減税策を導入。今年は新型ウィルスによる企業活動への影響もあって税収はさらに減少するだろう。今後財政の支出と収入の開きが拡大して,財政赤字がさらに膨らむ可能性がある。
経済成長が鈍化,国の財政赤字が拡大する中で社会保障費が膨らんでさらに介護保険と言われる新たなプレッシャーを迎える中国。少子高齢化の加速でその財政圧力が強まっており,今後の成長戦略にも影響を及ぼしかねない状況にある。
ー雑誌エコノミスト,3/13号, 片山ゆう,ニッセイ基礎研究所主任研究員,2月22日
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